砂川事件(憲法前文・9条関係の判例)

砂川事件(憲法前文・9条関係の判例)

この砂川事件は1950年代当時、戦後米軍によって使用されていた立川基地(現在の昭和記念公園の辺り)が日本国憲法前文の平和主義や第9条の戦争の放棄に違反するのか否かが争点となった事件。

 

この事件は、この米軍立川基地の拡張に反対するデモ隊が敷地内に侵入し逮捕された当時の刑特法違反に問われたデモ隊員7名の刑事裁判上でのお話だ。

 

この刑事裁判上で「米国軍の駐留は戦力の保持にあたり憲法9条に違反しているので、そもそも刑特法自体が無効である。よって被告人は無罪である。」という主張をしたようだ。

 

その裁判の結果どうなったのか?

 

 

争点整理。

 

そもそも条約は司法審査の対象となるのか?
条約というモノは国と国との間(若しくは多国間)で取り交わされる約束事なのであるが、一定の拘束力があり法律のような機能がある。
だが、法律ではない。
条約を司法審査の対象としていいモノかどうか、この点についてこのように結論が出ている。

 

本件、安全保障条約は、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度の政治性を有するものであるので、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣、承認した国会の高度の政治性ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくない。
  それ故、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまないものであり、一見して、きわめて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであって、それは第一次的には、締結権を有する内閣、承認権を有する国会の判断に従うべきで、終局的には主権を有する国民の政治的判断に委ねられる。


 

何とも歯切れの悪い結論であるが、試験対策としては「一見明白に違憲無効なら審査の対象になる。」という部分を覚えておけばよい。

 

米国軍の駐留は憲法第9条に反するのか。
この部分は、東京地方裁判所で行われた第一審で

 

9条の解釈は前文の憲法理念を十分考慮してなされなければならず、政策論によって左右されてはならない。


として、憲法に違反するとの判決が出され「刑特法は、憲法に違反するので無効であり、被告全員無罪。」という判決が出ている。

 

しかし、この判決を不服とした検察側は高等裁判所をすっ飛ばしていきなり最高裁判所に跳躍上告(ちょうやくじょうこく)【刑訴406条】し、最高裁判所によって”破棄差し戻し”とされ、その後地裁で行われた裁判でそれまでの判決をひっくり返す判決が出ている。

 

同条項において、戦力の不保持を規定したのは、我が国が戦力を保持し、自らその主体となってこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条1項において永久に放棄することを定めた侵略戦争を引き起こさせないようにするためであると解するを相当とする。
  従って、同条2項が保持を禁止した戦力は、我が国が主体となって、指揮権、管理権を行使できる戦力のことであって、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊はたとえ我が国に駐留するものであっても、同条項の戦力には該当しないと解すべきである。


 

この判決によって「米国軍駐留は憲法に反しない。」との結論が出たわけである。

 

当時、米国は朝鮮半島にて朝鮮戦争をしていた。
戦争真っ只中のこの時において前線基地となっている日本の立川基地を失うことは是が非でも避けたかったであろうし、当時の日本はその米国の意向をくんで動くほかなかったのであろう。

 

まさに「高度に政治的な判決」と言えるのかもしれない。

 

参考条文

日本国憲法前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

 

憲法第9条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 

2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 

刑事訴訟法第406条
訂正の判決は、弁論を経ないでもこれをすることができる。

 

 

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